サンタクロース・パパ
みよし

 ママはわたしに眠りなさいと言った。わたしはうなずいた。
「よくお休み」
 ママはそう言って、わたしのおでこにキスをした。

 一人ぼっちの部屋に戻ると、わたしの背丈と同じくらいの高さのクリスマス・ツリーが、寂しそうに立っていた。近づいて、よしよしと撫でると、ツリーは月の光にキラキラと揺れた。
「一人ぼっちね」
 キャンドルとか、お星さまとか、サンタクロースのお人形とかに囲まれているクリスマス・ツリーは、一人ぼっち。
 かわいいお洋服とか、あったかい帽子とか、ウサギのぬいぐるみとかと一緒にいるわたしだって、一人ぼっちだ。
 わたしはツリーのそばの窓から外を見た。もしかしてサンタさんがいるかもしれない、と探したけれど、外はただ暗いだけ。ため息をつくと窓が吐息で曇って見えなくなって、わたしはそのまま座り込んだ。
「サンタさんは、パパ」
 わたしは呟いてみた。隣の部屋でドアの閉まる音がした。ママも眠るのだろう。
「サンタさん、来ないかな」
 前の年のクリスマス、サンタさんになったパパは、夜中にわたしの部屋にやって来て、こっそりプレゼントを置いていこうとした。けれど、夜通し起きてサンタさんを待っていたわたしと目が合うと、パパは豆電球の薄明かりの中で少しだけ困った顔をした。そしてそれから少し笑って、言った。
「サンタさんに頼まれたんだ。忙しいから、君が渡してくれってね」
 サンタさんはいないんだよ、と友達から聞いていたので、わたしはそれが嘘だって、すぐにわかった。でもパパが、あんまりにも優しく言うものだから、あのとき、わたしはただただうなずいた。
 パパはわたしの頭をそっと撫でて、
「よくお休み」
 と言った。それからおでこにキスをすると、わたしに向って手を振った。
 わたしも、おやすみなさいと言って、ぐっすり眠った。
「パパ、帰って、来ない……かなあ」
 待ち続けたら、サンタさんは来るかもしれない。なのに、わたしはサンタさんを待っていることもできずに、なんだか眠たくなってしまった。
 パパの優しい笑顔を思い出しながら、わたしは窓辺に毛布を引っ張って来て、丸まって眠った。サンタさんに――パパに、もう一度だけおやすみなさいと言いたかったのに。
 サンタクロースはもういない。
 わたしが眠ってしまったから、パパはもう、帰ってこない。

<了>




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